ピストンと車輪のリズム指南

前口上

「リズムを点で捉えるな。円で捉えろ」なんてことをよく言いますが、わかっている人には当たり前すぎて「地球は丸い」といった話程度にしか感じられず、「別に改めて言うほどのことか」と思われるでしょうし、全くピンと来ない人は「なんだかわかったようなわからないようなことを言うなよ」と思われるのではないでしょうか。

リズムは絶えず運動し続けるものだと認識しています。バスケットボールをつくときのような、トランポリンの上で飛び跳ねるときのような、ホッピングで跳ね回っているときのような、フラフープを腰で回すときのような躍動を想起させてやまないものです。その一方で全く躍動しないリズムというものも世の中には散見されます。カップ焼きそばの湯切りに失敗して麺をシンクにぶちまけてしまったときのような感覚のリズムです。もはやそれをリズムと呼んで良いのかわかりませんが。

太平洋を挟んでお隣の国、アメリカには「It Don’t Mean A Thing (If It Ain’t Got That Swing) 」なんて曲があるそうですが、私も同じように躍動しなけりゃ意味がないね、と思うわけです。リズムにおける躍動感は食べ物における旨味成分のようなものだと考えています。躍動感のないリズムはさしずめ出汁の出てない味噌汁と言ったところでしょうか。なんだか味気ない。

出汁というものの存在を知っているにも関わらず、それを使うことができない状況に対してここ何年かずっともどかしさを感じていました。出汁の利いていない演奏は聴く側も演奏する側もともにあまり楽しくないものです。(もちろんこれは音楽のスタイルにもよりますけれど。微妙に躍動感を馴らしたような演奏にも魅力があります。先日亡くなったヤキ・リーベツァイトの演奏にそういったものを感じます。)

今に至るまで、リズムが躍動する感覚、またはその捉え方をなんとか言葉にして説明できないものかと思案してまいりました。これは自転車の乗り方を口で説明するようなものですから、七面倒くさく、また困難を伴うものです。いくつものフレーズが脳裏をかすめては消えていきました。例えば、「ホースの口を絞る」「リズム圧」「ウラとオモテにおける緊張と脱力あるいは筋肉の伸縮」「休符で本当に休む奴がいるか(帰れと言われて本当に帰る奴がいるか)」「リズムの円運動」「心臓ないしポンプ」「ヨーヨーの要領」「子音と母音の問題」「タンギング」「タオルをパシーンと鳴らすように」「遠心力」「急ブレーキ」「ジェットコースターの急降下と急上昇」「ゴムボール」「ドミノ倒し」などといったものです。これらを説明しようとしてみてもひとりよがりで終わることが多かったです。さらにこういったものは胡散臭くなりがちで、書いているうちに気分が悪くなってくることもあります。

正直なところ、こういったことは早々にクリアした上で、「こういうのはやっぱさぁ、ディラ以降の感覚だよねぇ」みたいなことを語りたい。あるいは「おっちゃんのリズム」「1拍子」「The One」といったキラー・フレーズをガツンとかまして終わりにしたい。自転車と同様に乗れて当たり前、出来て当たり前の世界の話をわざわざ云々するのは野暮だし、「みなまで言うな」とつっぱねる態度がやはり粋だと思うのですが、生憎それを貫くだけの才覚を持ちあわせて居ないため、愚直に泥臭く取り組んで行く他ありません。

鳥居のリズム革命

ブーツィー・コリンズがジェイムズ・ブラウンの「The One」というコンセプトについて説明する動画がYouTubeに何本か上がっています。ブーツィーがベースを持ち実演しながら説明してくれるのですが、その際ブーツィーは頭をテンポに対してジャストではなく後ろからゆっくり追いかけるように揺らしています。一方、下半身は太ももを上げての足の裏でイーブンに近い感覚で拍を取っています。これら二つの動作を見て、なんとなく上下運動と円運動の連動がリズムの躍動を生むのではないかと考えるようになりました。(別にブーツィーが頭で円を描いていたわけではないので、話にやや飛躍がありますが。)さらにこれは機関車のピストンによる往復運動が車輪を回転させる仕組みと似たものではないかと思いつきました。おそらくどこかで見聞きした種々のアイデアがここに来て結実したのでしょう。そこで音楽を聴きつつ実際に体を機関車に見立てて動かしてみるとなんともしっくる来る。思わず”Eureka!”と叫び出す勢いでした。

スネアにはただ下に落ちていくだけのスネアとバウンドして天に向かって飛んでいくようなスネアがあるとかねてより感じておりました。それは音色やアクセントではなくタイミングが決定するものであると考えていたのですが、「上下運動と円運動の連動」というコンセプトで今一度そのことに取り組んでみたら、その仕組みがわかったような気がしました。ただの思い込みなのかもしれませんが、収穫があったような気がして気分が甚だ高揚しております。

「All Night Long」に合わせてお蕎麦を頂く

これより上下運動と円運動を連動させる過程を説明してみたいと思います。同時にこれは音による躍動を体の動きに変換していく作業でもあります。回りくどくて七面倒臭いと思われるかもしれませんが、暇でやることがねぇなぁという方はお付き合いください。

まずは音源を用意します。今回はMary Jane Girlsの「All Night Long」でいってみましょう。ちなみにこの曲で聴くことのできるキックとスネアの音はオーバーハイムのDMXというドラムマシンの音です。

まずは噺家さんが蕎麦を食べるときのような仕草でリズムを取ってみます。最初に拍のオモテ(この曲ではキックとスネアが鳴るタイミング)で蕎麦をつゆに浸します。オモテは英語で”Down Beat”といいますので、文字通りに箸の位置を下に落とします。箸を下げるというよりは箸を落とすといった感覚で行ってください。腕をリラックスさせてただ下に落とすだけで良いです。さらに器をサンプラーのパッドに見立てて自分がキックとスネアを鳴らしていると思い込んで取り組むのがベターです。

次に拍のウラで箸を口元に持っていきます。この曲は1小節に8回ハットが鳴るので、頭から順に数えて偶数のときに鳴っているハット、つまりキックとスネアの間で鳴っているハットがウラとなります。ウラは英語で”Up Beat”と言います。文字通り箸で蕎麦を持ち上げて口元に近づけてください。このとき腕の重さを十分に感じながら上へと持ち上げます。(これよりウラ・オモテとは言わずダウンビート・アップビートという表記に統一していきたいと思います。動きの向きを指し示す後者のほうがより伝わりやすいかと考えて採用することにします。というわけで、以下、ウラ=ダウンビート、オモテ=アップビート)こちらもアップビートと同様に、口元にサンプラーのパッドがついていて、箸の先で自分がハットを鳴らしていると思い込むと良いでしょう。

これでアップビートとダウンビートによる上下運動が完成しました。ついでに箸の動きに連動させてつま先と顎を上げ下げするとさらに良い感じになるかもしれません。さらに「1 and 2 and 3 and 4 and」と声に出してカウントを取ってみるのも有効であります。このダウンビートとアップビートによる上下運動はリズムの土台となるもの非常に重要なものです。

次に腕全体を使って蕎麦を上げ下げしていきます。現在、箸の上下運動は肩もしくは肘が支点となっていると思います。今度はこれらの支点をなくし肩自体の上げ下げによって腕ごと箸を動かします。これを肩の力だけで行うと非常に疲れるので、お腹と背中を使って肩及び腕全体を上下させます。下っ腹にトランポリンが設置されているようなつもりでやってみると良いでしょう。または自分がバスケットボールになって誰かにドリブルされてるところをイメージするのも有効かもしれません。箸は出来るだけ大きく上下させてください。このように肩全体の上下運動でリズムを取ったときのほうがキックとスネアに重みが感じられるのではないでしょうか。

これで機関車におけるピストンの部分が完成しました。次は車輪を動かしていきたいと思います。

“The train kept a-rollin all night long”

先ほどまで箸を上下させていた分の高さを円の直径とし、縦に円を描いていきます。円が回転する方向は車輪が前進するときと同じです。要はモーニング娘。の「恋愛レボリューション21」の「ウォウウォ、ウォウウォ、ウォウウォ」の振り付けを片手だけでやる、みたいなことです。これを右から覗き込むと時計回りとなります。これからアナログ時計に例に出すつもりなので、決して円を左側から覗きこまないでください。早速時計に例えますが、円を描くときに6時に通過するのがアップビート、つまりキックとスネア、12時に通過するのがダウンビートのハットとなります。1拍で12時間が経過するということになりますね。各ポイントを通過するタイミングは日本の電車のように正確でなくて構いません。なんとなくで良いです。円を描く速度も一定ではなく、曲のテンポに合った自然なスピードになるように調整してください。しかし肩の上下運動はダウンビートおよびアップビートに合わるつもりで。つま先の上下運動でガイドを出してやると良いかもしれません。さらに音楽と手の動きをシンクロさせるためにキックやスネアの余韻を指で撫でるようなつもりが取り組んでみてください。音楽が描く円の軌道上にのっかるイメージですので、宇宙空間におけるランデブー飛行と同様のものだといえるでしょう。

このように円を描きながらリズムを取ってみると拍がボールのようにバウンスする感覚と、前へ前へと進んで行く感覚が得られるのではないでしょうか。

“Get up for the down stroke”

これをさらに発展させていきます。円を縦に割って、自分に近い方の弧を「アップビートの弧」、反対側の弧を「ダウンビートの弧」と捉えます。円を描く指の進行方向を考えればすぐにわかることかと思われます。弧は英語で”arc”なので、”Down Beat Arc”、”Up Beat Arc”なんと呼ぼうかと思いましたが、「アラサーの人が高校生の頃にやってたバンドの名前」みたいなのでやめておきましょう。しょうもないことを言っていますが、この「アップビートの弧・ダウンビートの弧」というコンセプトは重要なものです。

ここで重力という要素を取り入れて今まで以上に腕の重みを意識しながら円運動に取り組んでいきたいと思います。まず腕をリラックスさせることが重要です。力を抜いてアップビートから出発し、重力に従って腕を落としてダウンビートの弧を通過していきます。上半身の体重を腕にのせるようなつもりでやると良いです。そして、腕が落下していくときのエネルギーが最大となる瞬間をキックやスネアのアタックが鳴るタイミングに合わせて、重力に逆らうつもりで腰で弾みをつけて腕を持ち上げ、アップビートの弧に突入します。腕がダウンビートを通過する瞬間に下から強く息を吹きかけて再び腕を上昇させるといったイメージを持つとわかりやすいかもしれません。(パーカッション奏者の浜口茂外也さんが「ブランコの理論」ということを提唱されていますが、それに近い感覚なのではないかと思われます。浜口茂外也さんインタビュー Vol.1

さらに、アップビートの弧を通過する際に、指先の運動エネルギーがヘソの下辺りから背骨に沿って頭のてっぺんまで通過していくといったイメージを持って取り組むと体重が移動していく過程を体感しやすくなると思われます。チャクラを下から上に向かって通過していくイメージです。

これで一連のサイクルが出来上がりました。コツがつかめてくるとだらりと脱力させた腕を腹の力だけで回転させられるようになります。このようにできれば長時間この作業に取り組んでいてもあまり疲れないと思います。

これら一連の動作を通じて、手がアップビートの弧を通過するときに筋肉は緊張した状態で、ダウンビートの弧を通過するときは弛緩した状態だということが判明しました。手を自分の方に引き寄せるときにぐっと力を入れなくてはなりません。ボートに例えるとアップビートの弧を描くことがオールで水を掻くことに相当しますから、これは力が必要です。一方、ダウンビートの弧に沿って手を前方に放り投げるときは大して力を使う必要はありません。

よく芸人さんが「緊張と緩和が笑いの基本」なんてことを言いますが、リズムの基本も同様であると言えるかもしれません。ここでは、ダウンビートを弛緩、アップビートを緊張としましたが、音楽のスタイルによってこれが逆になる場合もあります。ジャンル名の硬度が高くなれば高くなるほどにその傾向は顕著になると言えるでしょう。注意すべきは、我々がどのようなスタイルの音楽に対しても「ダウンビートを緊張、アップビートを弛緩」であると捉えがちという点です。

また、ダウンビートの弧、アップビートの弧という捉え方をすると、ダウンビート・アップビートというものが、実際は限りなくアップビートに近いダウンビート、または限りなくダウンビートに近いアップビートであることが感じられるかと思います。このように解釈してみると単純な上下運動で捉えるよりもダウンとアップを繰り返す作業が滑らかに感じられるのではないでしょうか。

上に向かって飛び跳ねているように聴こえるスネアがあるということは既に述べました。スネアのタイミングというのは点で捉えるならダウンビートなのですが、スネアの余韻が響いてる時間はアップビートの弧に属します。これがスネアが上に向かって飛び跳ねて聴こえる理由なのではないかとひとり合点がいっている次第であります。冒頭の「リズムを点で捉えるな。円で捉えろ」という言葉を自分なりに改変すると「リズムを上下運動と円運動の連動で捉えろ」となりますが、キラー・フレーズ感ゼロでとても残念な限りです。

パーラメントの曲に”Up For The Down Stroke”というものがございます。アルバムのタイトルにもなっています。この”Up For The Down Stroke”というタイトルが今回のテーマにうってつけなので、ここで聴いてみることにしましょう。もちろん上下運動と円運動の連動でリズムを取りながら。途中でトリッキーな仕掛けがありますが、どうにか乗り切ってください。この箇所に円運動がすっぽりハマることができたら脳内麻薬が分泌されること請け合いです。

ちなみに、こちらの曲でベースを弾いているのはブーツィー・コリンズでございます。JB仕込みの「On The One」を感じさせるリズムとなっております。つきましては、4拍目から1拍目に向かう円の軌道を大きく取ってみてください。つまり、”The Down Stroke”のための”Up”の弧を大きく描くということです。このように捉えてみるとリズムにしっくりハマるはずですのでどうぞご確認ください。

“Hold On, I’m Comin'”あるいは円周上の演習

もういい加減にしてくれよとお思いの方もいることでしょう。このページを開いたのが10人いたとしたら、ここまで辿り着いたのはたった1人ぐらいではないでしょうか。これまでに費やした5900文字がただの徒労に終わる予感をひしひしと感じていますし、これもまた独りよがりになっている気がしています。しかし独りよがりついでにもう少し続けます。今度は「上下運動と円運動の連動」を応用してサザンソウルなどに見られる後ろに引っ張ったようなバックビートに取り組んでみたいと思います。次の課題曲はアル・ジャクソンのドラムによります”Hold On, I’m Comin'”でございます。演奏するのはもちろんBooker T. & the M.G.’sの面々ですが、各楽器のギヤがキッチリ噛み合っており馬力のある四輪駆動の自動車を感じさせるようなものの見事な演奏です。アンサンブルかくあるべし!

こちらの曲も例のごとく上下運動及び円運動でリズムを捉えていきます。この曲の場合、正円つまりまん丸の円で捉えてしまうとこの曲のもつダイナミズムを見失ってしまいます。この曲の躍動感を味わうために、今回は小さな楕円と大きい楕円を用意します。汚くて恐縮ですが、図にしてみたのでご確認ください。

(手書きの図を使うと一気に危ないムードが漂ってきますね。CGで描かれた謎のイメージ画像などを使用したらさらにヤバい感じになりそうです。これ、本当は時計回りのつもりで書いたのですが、縦の円を左側から覗き込んでしまったために矢印の向きが反時計回りになってしまっています。方向音痴なんです。)

この図を見てもよくわからないと思います。さらにこれを文章にしたらもっとわからなくなると思いますが、続けます。

お手玉で遊んでみよう!

上記の図は一体なんなんでしょう。要はアル・ジャクソンの叩く「遅れて聴こえるスネア」のタイミングに合わせて円の軌道を大きくしようということです。お手玉に例えると少しわかりやすくなるかと思います。まず中に鈴が入ったお手玉をひとつ用意します。もちろんこれはイマジナリーお手玉で構いません。まず、このイマジナリーお手玉を目線の高さまで放り上げます。次にダウンビートのタイミングでお手玉をトスします。このとき鈴が鳴ります。つまりお手玉の中の鈴の音でダウンビートを刻んでいくわけです。目線の高さはアップビートだと思ってください。

この一連の動作を”Hold On, I’m Comin'”のドラムに合わせてやってみましょう。2、4拍目で鳴るスネア、つまりバックビートが遅れて聴こえるということは既に述べました。この遅れたスネアのタイミングに合わせてお手玉の鈴を鳴らすためにためにはどうしたら良いでしょう。お手玉をトスないしキャッチ&リリースするタイミングを遅らせてやれば良いわけですから、その位置を下げてやれば良いということになります。1、3拍目に肩の高さでトスしていたのを、2、4拍目では手の位置を下げてへその下あたりでトスしてやれば鈴の鳴るタイミングは自ずと遅れます。へそあたりでトスするときもアップビートの位置である目線の高さまで放り上げるというのがミソです。2、4拍目でトスする位置を下げて鈴の鳴るタイミングを遅らせて分、お手玉に勢いをつけないとアップビートのタイミングで目線の高さまで達しません。そうしないことにはリズムになりませんのでご注意ください。

重うてやがて素早きバックビートかな

次にこのお手玉の上下運動を例によって円運動に変換していきます。1、3拍目と2、4拍目、それぞれの上下運動の高さを直径として小さい円と大きい円にします。上記の図がそれを指し示してますので今一度ご確認ください。

これらの円が”Hold On, I’m Comin'”にばっちり合うように指先を回転させていきます。今回は図のように楕円形に捉えてみると良いでしょう。肩および上半身全体を軽く上下させることも忘れずに。この曲の持つダイナミズムと体の動きをシンクロさせるためにはちょっとしたコツがいるような気がします。

小さな円と大きな円が交差するポイントである1、3拍目のアップビートのタイミングでふっと力を抜いて重力に身を任せます。授業中に居眠りしていて頭が下にカクンと落ちるときの要領です。軽めの急ブレーキを踏まれて上半身にGがかかった状態ともいえます。約5kgほどあるらしい頭の重さを腕に乗せる感覚でやると良いでしょう。そして、ダウンビートとアップビートが折り返す瞬間をアル・ジャクソンのバックビートのタイミングに合わせます。しかし、このままでは下に落ちていくばかりで回転が止まってしまい、アップビートに帰ることができません。そこで回転を止めないために腕が下降する際のエネルギーが最大となった瞬間に浜口先生の「ブランコの理論」のごとく腰で弾みをつけて腕を上昇させます。授業中に船を漕いでいる状態で、頭がカクンとなった反動で上半身が元の位置に戻るのと同じような動きとなります。このとき、さきほどのお手玉と同様にダウンビートのポイントを下げてタイミングを遅らせて分、アップビートに間に合うように勢いをつけてやる必要があります。例のごとく下っ腹にトランポリンが設置されていると思って一気に腕を引き上げてアップビートの弧を通過させると良いです。さらに、上で待っているアップビートに向かって”Hold On, I’m Comin’!”と叫ぶと気合が入ってモアベターです。

これで遅れて聴こえるバックビートを大小の円で捉えるための一連の流れが完成しました。このように円周上の緊張と弛緩の流れというコンセプトに基づいて実際に体を使いながらアル・ジャクソンのバックビートを捉え直してみると、そのアタックは腹にズシンと重く響いて感じられ、またその余韻は天に向かって加速していくということが感じられたのではないでしょうか。こういったことは例えば楽譜のように横軸だけで捉えていてもなかなかわかりづらい事柄であると思われます。遅れて聴こえるバックビートの捉え方をディアンジェロの『Voodoo』に応用してみるのときっと楽しいはずです。”Feel Like Makin’ Love”などは月面を散歩しているような感覚が味わえて最高です。この曲をアップビートの弧を無視して聴いた場合、きっと下に沈んでいくだけの、眠りを誘う音楽に聞こえてしまうことでしょう。

これまで述べてきた作業は言わばリズムに沿って体を動かすときの上半身における体重移動の過程を一旦腕を使って体感した後にその感覚を上半身まで波及させるといったものです。一度この動作が会得できてしまえば、毎度毎度律儀に手で円を描く必要はないはずです。チャック・レイニーあるいは細野晴臣といった躍動感の塊のようなベーシストが演奏中にあまり動かないことに鑑みて、むしろ動かずとも感じられるものであると考えます。

“Free Your Mind and Your Ass Will Follow” 結びにかえて

このように文章していく過程で完全に拍を見失ってしまいました。音楽に対して全くピントが合いません。どうしたら良いのでしょう。

それにしても、リズムによってもたらされる心地よさを言葉するだけでこうも息苦しいものになるとは。まったく躍動感のない文章であります。端からそんな予感はしておりましたが。こういったことはなるべくなら止して、金言をかまして終わりにするほうが絶対に良いと改めて痛感しております。仮にそれができるのであればの話ではありますがそのほうが確実にヒップです。ただ、体を使って今まで述べてきたようなことばかり何日か続けていたら、踏切のカーンカーンという音がアップビートに聴こえたり、心臓の鼓動が円を描き出したり、歩いているときに自然にダウンビートを感じられたり、自分のくしゃみがJBの”Hit me!”(4拍目)に聴こえたりするようになったで身体に対して何かしらの作用はあったと言えます。

これら一連の動きだったり円周上を点が移動していく様をアニメーションにすることができたらもっとわかりやすくなるのではと考えています。似たようなものは既にあるようですが、こちらはリズムの構造を時計をモデルとして図式化するものなので運動を図式化しようする当方のコンセプトとは別物となります。(それはそれで興味深い内容となっているのでご紹介しましょう。A different way to visualize rhythm – John Varney

さて、このへんでそろそろ黙ることにします。ファンカデリックの”Free Your Mind and Your Ass Will Follow”という素晴らしい標語を結びと代えさせていただきます。