ベース好き

実にどうでもいいことだがベースが好きだ。ギターよりも好きかもしれない。

18才頃まで楽器の上手い下手というのは難しいフレーズが弾けるかどうかで決まるものだと考える節があった。例えばルート弾きだったら下手くそ、ルイズルイズ加部よろしく弾きまくってたら上手、というように。ずっと音楽を縦に聴いていたためだ。

大学生になって軽音サークルに所属し、色んな人の演奏を目にする機会が増えた。そんな折、同じルート弾きでも弾く人によって、ベタッとしていて退屈に感じられたり、活きが良くて思わず動きたくなったりすることに気がついた。音楽には横の伸び縮みがあるということを知った。

はっぴいえんどの「はいからはくち」を初めて聴いたとき、ベースに対して何なんだ?と思った。Aメロ部のベースは1フレーズごとにシンコペーションの位置が変わる。聴いていて可笑しかった。

そして件のベースを弾いているのを誰かと申せば細野晴臣御大である。昔ローソンのCMで森高千里の旦那役を演じていたあのオジサンだ。当時、CMを観る度にこのオジサン何なの?と思っていた。そうしたら母がこの人すごい人なんだよと教えてくれた。そして何年かごしにその凄さを知ったのだった。

細野晴臣のベースで好きなのは「花いちもんめ」「風来坊」「薔薇と野獣」「泰安洋行」「体操」「流星都市」「びんぼう」「生まれた街で」「返事はいらない」「Exotica Lullaby」「楽しい夜更かし」あたり。公的抑圧の「東風」における間奏には毎回ハッとさせられる。「LOVE SPACE」や「都会」の洒脱なベースにはどこか危ういところがあるが、それがとぼけた味わいになるんだからやはり名人だと思う。

ベーシスト細野晴臣のファンになったことで、音楽の聴き方が変わり、好きなベーシストも増えた。

需要がないことはわかっていますが、好きなベーシストを発表させてください。

トミー・コグビル Tommy Cogbill

メンフィスのアメリカン・サウンド・スタジオのお抱えバンド=メンフィスボーイズの一員として多くの名演を残したコグビル氏。アメリカ南部のボトムを支えたベーシスト三英傑の一人。(残る二人は言わずもがなドナルド・ダック・ダンとデヴィッド・フッド)

アレサのマッスル・ショールズがらみのアルバムを聴いてまずベースに反応した。ベースを弾いているのはデヴィッド・フッドかと思えばさにあらず。どっこい当時まだ腕に自信のなかったフッド氏に代わってメンフィスから呼び出されたコグビル氏であった。

コグビル氏のベースは恰幅が良い。キング・カーティスの“Memphis Soul Stew”をジェリー・ジェモットの弾くフィルモア・ウェスト版と比べると、ジェモット氏の方は小回りが利く印象を受け、一方、コグビル氏はどっしり構えていて四輪駆動の車のようだ。そこで、トミー”ミスタータンクローリー”コグビル氏のどでかいベースラインベスト3。

“Funky Broadway” Wilson pickett
“Wearin’ That Loved On Look” Elvis Presley
“Chain Of Fools” Aretha Franklin 

チャック・レイニー Chuck Rainy

弦はゴム製のものを使っているのか?と思うほどのものすごい躍動感に、音にも運動エネルギーってあるんだなあとしみじみ思う。16分音符で敷き詰めたベースラインは体育館に大量のスーパーボールを天井から落としたようなもの。ゴムっぽいといえば、ザ・バンドのリック・ダンコのベースにはとてもラバー感がある。彼らのような素敵なベーシストは空間が伸縮する様を音で描くことができる。

ベーシストが苦心することの一つにキックのアタックといかにしてタイミングを合わせるかということが挙げられると思うが、レイニー氏はそれのとても良いお手本になるだろう。盟友バーナード・パーディーとのコンビによる“Rock Steady”なんかはバスドラとベースが一つの音の塊のように聴こえる。レコーディングの技術もあるのだろうが。

レイニー氏の演奏でお気に入りは、アレサの歌ったバカラック/デヴィッドのペンによるゴージャスな“April Fools”での演奏。リズムアレンジの下敷きはおそらく“Tighten Up (Part.2)”の特にフェードアウトする部分ではないかと思う。いや違う!インプレッションズの“We’re a Winner”のNY流16ビート的解釈ではないか。いやあそれにしても素晴らしい演奏だなぁ。

基本的にはダンディな物腰のレイニー氏だが、興が乗れば「いつもより余計回しています」ということもある。そんなわけでハイテンションのレイニー氏ベスト3。

“Cold Sweat” Phil Upchurch
“Proud Mary” The Voices Of East Harlem
“Get Back” Shurley Scott & The Soul Saxes

アール・ロドニー Earl Rodney

マイティ・スパロウのアルバム「Hot And Sparrow」でベースを弾いている人。本業はスティール・パン奏者で、またアレンジもこなす。マイティ・スパロウやロード・キチナーといったカリプソ歌手のバックバンドで監督役を務めていたそうだ。

ロドニー氏は縦と横のバランスが取れたベースラインを弾く。そういった意味でジェイムズ・ジェマーソン、ポール・マッカートニー、細野晴臣のようなタイプ。理想的なベーシストである。

Friends & Countrymenというスチールドラムアフロファンクといった趣のDopeなリーダー作もある。

“Sparrow Dead” Mighty Sparrow
“Strife in the Village” Earl Rodney

ティナ・ウェイマス Tina Weymouth

概ね「トーキング・ヘッズのかわいこちゃん」みたいな扱いだが、この人ほど丹念にベースを弾く人はいないんじゃないかと思う。YouTubeかなんかでちょろっと「ストップ・メイキング・センス」観て黒人のグルーヴが云々という知ったような口を利く輩はまず彼女の音価と休符を完コピして出なおして来いと言いたい。おまえは音価のコントロールで愛嬌を表現することができるのかと問いたい。トム・トム・クラブは永遠です。

“Wordy Rappinghood” Tom Tom Club
“Psycho Killer” Talking Heads
“Take Me To The River” Talking Heads

 

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