オチのない話

新宿駅での出来事。明大前で人と会う約束があったので、滅多に利用しない京王線の構内を歩いていた。家路に就こうとする人で構内は混んでいた。

改札を抜けてホームへ続く階段を降りていると、脛に何かがぶつかった。立ち止まって顔を上げると大学生風の若い男がこちらを見つめていた。この男が誤って何かをぶつけてしまい、それを詫びようとしているのかと思えた。しかし男は黙っている。うまく言葉が出てこないのだろう。

しばらくの間、見つめあいが続いた。よく見ると男の目は充血していた。無表情ではあったが、鼻息が荒くどうも興奮している様子だった。こちらが気付かないうちに男に何かしてしまい、それに怒った男が脛に蹴りをいれてきたのかとも考えられた。何か文句を言ってくるのかと思って、ずっと言葉が出てくるのを待っていたが何も言う様子がない。

埒が明かないので、状況が掴めないままホームに向かって歩きだした。すると、男も俺の横にぴったりついて歩き出した。立ち止まって男の顔を見ると、黙ってこちらを見つめ返してきた。無視して歩き出すと今度は後ろに回ってついてくる。また立ち止って振り返ると男も動きを止める。男の足は震えていた。

ホームへ降りると、また俺と男の見つめ合いが始まった。どう声をかけていいのかわからなかった。俺が「あ」と言いかけると、男は急に踵を返して何事もなかったかのように列に並び始めた。俺は男と距離をとって電車を待った。

ホームに電車が到着した。車内に男の姿を見つけることはできなかった。どんどん人が乗り込んできて、やがて身動きが取れなくなった。電車が走りだした。脛に鈍い痛みに残ったままだった。

話はここで終わりで、特に続きがあるわけではない。拍子抜けはこちらも一緒である。

これはいわゆるところの「オチのない話」だが、「オチをつけなかった話」とも言えるわけである。対処の仕方如何では、立派なオチがついたかもしれない。

「なんなんですかアナタ!人のことジロジロ見て!何か言いたいことがあるんですか!」なんて言えば、また違った結果になっていただろう。しかし、相手の出方を窺うばかりで、特に自分から働きかけることを避けた。

どうやらオチは自然につくものでないようだ。おそらく、自分で積極的に働きかけないことにはつかないものなのだ。話上手の人は普段から話にオチがつくように意識して行動しているのだろう。

そうか、オチをつけるのは作為だったのか。どうりで自分の身には「おもしろい出来事」が起こらないはずだ。今まで全然気付かなかった。ああ嫌だ嫌だ。

そう思うとオチオチしていられないね。

 

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