鳥ちゃんの「ドリームズ・カム・トリー」

先日、山手線に新たに増える駅の名称が「高輪ゲートウェイ」に決定した。ネット上では「ダサい」という声が多かった。たしかにダサい。母音が「ああああ」と続いた後に1文字目に濁点のついた横文字が来て「ウェイ」で閉じるという語感の座りの良さがとてもダサい。ちなみに一番最初に連想したのは「漫才ギャング」。

漢字二文字の後ろに横文字を持ってくるというセンスは、昭和62年生まれの我々世代には椎名林檎のイメージが強い。「無罪モラトリアム」「勝訴ストリップ」「発育ステータス」「御起立ジャポン」など。「大正デモクラシー」「大正ロマン」のような大時代的な和洋折衷の世界観を演出するために多用されたのだろう。

椎名林檎のデビューから数年経つと、国内のロックバンドの曲名などで漢字二文字と横文字というネーミングを目にする機会が増えた。椎名林檎に影響を受けたのかはよく知らない。ただ言えるのはその時点で既に椎名林檎にあったアナクロなイメージは形骸化していたということだ。ちょうどその頃は色気付いた高校生で、メジャーレーベルに所属しながらオルタナティブな音楽に取り組んでいて且つ、私大に通う垢抜けない学生っぽい見た目のドメスティックなロックバンドがあまり得意ではなかったから、彼らが多用した漢字二文字プラス横文字というネーミングにあまり良いイメージを持っていない。だからなんなんだという話ではあるが。

ところで「高輪ゲートウェイ」のダサさは漢字二文字の後ろに横文字に持ってきたことにあるわけではない。そんなことはまったくもって問題ではない。世の中には「中央フリーウェイ」というタイトルの名曲も存在する。だいたい「高輪ゲートウェイ」が山手線の駅名であるという前提を欠いたままそのダサさを品評しても仕方がない。既存の駅名と比べるとどう考えたってバランスが悪い。だから皆文句を言っているだ。自分たちがこつこつと続けてきたパーティーに特に面識があるわけでもないダイモンジの龍谷(仮名)が突然やってきて我が物顔で「イエーイ!最高~!」などと言って盛り上がっていたらきっと興ざめするはずだ。そういうことをするような奴だよ、高輪ゲートウェイは。

高輪ゲートウェイのダサさは名前そのものにあるというよりは、名前を付ける際に余計なことをしないと気が済まないケチくさい心性にある。それは、スティーブ・ヴァイのギターについている持ち手、通称「モンキー・グリップ」のようなダサさだ。よく取り沙汰される国内メーカーの自動車や家電のデザインを例にあげても良い。なぜ我々はいらぬ工夫を凝らしてしまうのか。なぜ我々はシンプルな白のコンバース・オールスターを選ぶことができないのか。なぜキャラクターグッズの類を身に着けてしまうのか。なぜどうでも良いようなTシャツを着ることができないのか。どうして裾を折り返すと裏地がタータンチェックになっているズボンを履いてしまうのか。なぜ別にオシャレなんか興味ないもんみたいな顔を装いつつ悪目立ちはしたくないけれどほんの少しだけ人とは違うことがしたいという気持ちを捨てきれずに腰の引けたいじましい選択ばかりしてまうのか。

子供の頃、アーケードゲームの高得点者ランキングで「あああ」だとか「aaa」といった名前をよく目にした。SNSのアカウント名が「あ」みたいな人を見ると感動する。そうした真っ当なつまらなさを忘れてしまったか。「おもしろきこともなき世をおもしろく」を座右の銘にする人々は自分のせいでますます世の中がつまらなくなっているかもしれないとほんの少しでも考えたことがないのだろうか。「おもしろいことがやりたいんすよ~」という空疎な言葉が凡庸な業界人の口癖であることはもはや誰もが知るところだろう。

仮に我々が我々の人生の主人公であったとしても、それで他人が人生の脇役、ましてや人生の観客になるわけではない。人は誰かの人生を観劇するために生きるにあらず。ステージ袖で共演者のライブを観るときに、客席から見える位置に立つのはわざとだろう。友達とじゃれ合ってるふりをして「おい!おまえまじふっざけんなよ~!ほんと馬っ鹿じゃねえの~!」などと窪塚洋介のような調子で叫びながら女子のほうをチラチラ見ている男子高校生のようにみみっちい真似はもうやめるべきだ。

我々がアセンションするために必要なのは、なんとなくおもしろい感じのことをしてウケてやろうとすぐ考えてしまう精神を一切捨てることだ。気の利いた風の「おもしろ」企業アカウントの中の人のような存在を見つけたら唾を吐きかけて吐きかけて吐き続けて全身をぬるぬるにしてやらねばなるまい。例えこの身が干からびて朽ち果てようとも。この世界に「おもしろ」好きのサブカル糞野郎や2ちゃんねらー的な価値観を内面化したマザーファッカーどもの慰みとして存在するものなどひとつもなし。この世界を「おもしろいこと」から解放することこそが我々に課せられた唯一の使命である。

 

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