訪問販売に泣く

ネット契約の訪問販売が来た。ドアを開けるやいなやどこの者かもきちんと名乗らぬ内に回線がどうした値段がどうしたということを一方的にまくし立ててくる。昔学校で教わった自分がされて嫌だと思うことは人にやってはいけませんよという内容の故事成語に倣って、自分が話しているときに遮られたら嫌だし人の話は最後まで聞くということを実践していたら、あれよあれよという間に工事の予約を取り付けようとしてくるのでこれはナンパ物のAVなのかと思う。精神が蹂躙されているような心持ちになり情けなくなってくる。

以前、似たような場面に出くわした際はいっそのこと泣きだして相手を困らせてやろうかとも思った。結局は、うーん、いやあ、そうですねえ、という曖昧な相槌を打って相手が根負けするまで粘り撃退した。卓球でいうところのカットマンスタイルだ。

向こうはこちらの意志など関係なしにどんどん話を進めていく。時折「そちらはご了承いただけたらと思います」というような言葉が挟まれるが全く意味を成していない。そういう一方的な話の進め方をされると、戦略としてではなく実際に涙が出そうになる。

今回も最初は悲しみが勝っていたが、段々と怒りが湧いてきた。ひと通りの話は終わったようなので、そもそも契約する気はないと言うと、こんなにお得なのに何で切り替えないんですか?馬鹿なんですか?という態度を取ってくるし、浮いたお金で遊んだりできますよなどといらぬアドバイスまでよこしてくる。余計なお世話だ。

死角から鞄がちらちら見えていた。話している男の先輩がそこに立って様子を覗っているのだろう。男の話しぶりにはそいつに対するパフォーマンス的なところもあって更に腹が立つ。

何でダメなんですか。納得がいかないのならきちんと説明しますよと言うので、いきなり一方的に話されても困る、と答えた。そのときの私は炭酸飲料の入ったペットボトルで、ひとしきり揺さぶられた後、蓋を少しだけ開けた状態であった。感情が隙間からジュンジュンいいながら漏れてくる。F1の表彰式におけるシャンペンファイト、日本一の球団によるビールかけと比較すれば、微々たる感情の発露だ。しかし完全に開けてしまえば泣いてしまうだろうからこれ以上は開けられない。

そもそも急に来てこちらの時間の都合も聞かずに一方的にまくし立てられても困る。最初にそれを尋ねるのがマナーじゃないのか。そういった旨を顔面をプルプルさせながら伝えると、あー、忙しかった感じですか?今度は低姿勢で来るのでまたお願いします。と言って去っていった。

色々と納得のいかないところはある。こちらの内面のシュワシュワなど相手の知る所ではない。なるほど相手にしてみればこちらは顧客開拓のワンオブゼムに過ぎないかもしれない。それにしたってそんな軽い返しはあるか。だいたい低姿勢って何だ。俺はいわゆるめんどくさい人間なのか。

怒るのが下手だ。たまに怒りを表明するとキレてんの?と言われ洒落になってしまう。なんてださいんだろう。

きっと戦場に出たらマシンガンを見境なく撃ちまくって味方を困らすタイプだ。 一方で世の中には合気道の名人のような美しい怒り方をする人もいるはずだ。そういう人に私はなりたい。しかしそう願えば怒りがパフォーマンスじみてくることだろう。変に意識して照れ笑いしてしまいそうだ。恥じらいを顔に浮かべつつ涙を流し激昂してる奴がいたらそれはそれで怖い。

 

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