目撃

田舎から出てきたのが2006年の4月だから、もう7年と3ヶ月という歳月を東京で過ごしたことになる。ふとこうして考えてみると、月日が流れるのは本当に早いもの、そう感じる。それでも、いくら年月が経とうとも、都会の雑踏の中で有名人を見かけると嬉しく思う気持ちだけは未だに変わらない。

こっちに出てきて初めて見たのは「間違いない」の決め台詞で有名な芸人Nさんだった。中野駅の改札から出てくるところを目撃。学生時代にアルバイトをしていた原宿では、バイト中、店先を掃除しているときに同郷の女性芸人Mさんを見かけた。小学生の頃から彼女がレギュラー出演している土曜8時の番組を毎週見ていたから感慨も一入だった。下北沢では、ライブを観に行った帰り、会場で一緒になった友人たちとラーメン屋に立ち寄った際、テンポの良いショートコントでお馴染みのコンビEのボケの方を見たり、近頃はマラソンランナーとしても活躍中のNさんが収録している場面に遭遇したりもした。新宿では、テレビ東京で子供向け番組のレギュラーを務める吉本所属のコンビFのボケ担当Mさんや、伊勢丹の紙袋柄のセットアップを衣装にする芸人さんが私服で歩いているのを見かけたり。池袋では「アリケン」に出ていたチクワ芸人のKさんに気づいたことも。なぜだか、街中で、あ!と思うのは芸人さんばかり。

そんなつもりはないけれど、それでもちょっと、確かに、自慢かもなって、思う。

でも、有名人を見かけても、遠くから見ているだけで、声をかけたり、握手やサイン、写メをねだったりということは一度もしたことがない。そういうことをするのはドキドキするから、なかなかその一歩が踏み出せない。

昔、下北沢に住んでいた友人が体験した話。近所を歩いていると突然知らない女の子に声を掛けられたという。
 「あの、松山ケンイチさんですか?」
私は松山ケンイチさんの友人ではないから、彼が松山ケンイチさんでないことは改めて言うことでもないかもしれないけれど、確かに彼は松山ケンイチさんに似ているところがあった。「いえ、違います。」と言ってその場を去りつつ、彼は笑いをこらえるのに必死だったとのこと。

人違い。大いにありえる話。自分が今までに見かけたと思っている有名人も、ちゃんと確かめてみたら半数以上が思い過ごしだった、なんてこともあるかもしれない。そんなことを考えだすとますます声がかけにくくなる。

「あの、すいません、K DUB SHINEさんですか?」
「ああ?」
「あ、K DUB SHINEさんじゃないですか?」
「K DUBじゃねぇよ、てめぇ喧嘩売ってんのかよ、ちょっと来いよ。」
「ひい!」

こんなことも考えられる。

「あの、すいません、菊地成孔さんですか?」
「え?」
「あ、菊地成孔さんじゃないですか?」
「うん?イヤ、違うけど。」
「あ、大江千里さん・・・ですよね?」
「うん、そうだけど・・・似てるか?」
「え?いやぁ、すいません・・・。」

これは気まずい。

こんなことを考えだしたら怖くてもう声なんて掛けられない。何にも行動には移さず、「有名人を見たんだ」と心の中にだけ、そっと留めておくのが良いかもしれない、なんて思ったり。

それでも、街中で偶然見かけただけで心をハッピーにしてくれる有名人の皆さんに、感謝!です。

 

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